不動産登記を申請するとき、添付書面は原本還付してもらうことができます。
不動産登記規則第55条を見てみましょう。
不動産登記規則(抜粋)
(添付書面の原本の還付請求)
第五十五条 書面申請をした申請人は、申請書の添付書面(磁気ディスクを除く。)の原本の還付を請求することができる。ただし、令第十六条第二項、第十八条第二項若しくは第十九条第二項又はこの省令第四十八条第三号(第五十条第二項において準用する場合を含む。)若しくは第四十九条第二項第三号の印鑑に関する証明書及び当該申請のためにのみ作成された委任状その他の書面については、この限りでない。
2 前項本文の規定により原本の還付を請求する申請人は、原本と相違ない旨を記載した謄本を提出しなければならない。
3 登記官は、第一項本文の規定による請求があった場合には、調査完了後、当該請求に係る書面の原本を還付しなければならない。この場合には、前項の謄本と当該請求に係る書面の原本を照合し、これらの内容が同一であることを確認した上、同項の謄本に原本還付の旨を記載し、これに登記官印を押印しなければならない。
(以下省略)
不動産登記規則第55条一項の内容を簡単にまとめると
「登記申請書の添付書面は原本還付ができるけれど、当該登記申請のためだけに作成された書面については原本還付できません」
ということになります。
原本還付ができる書類は、例えば売買契約書などがこれに当たります。
こらに対して、お客様から頂く登記用の委任状は、登記申請のためだけに作成される書類ですので、原則としては原本還付されないことになります。
委任状の還付の必要性が生じた事例
お客様から頂く登記用の委任状は、原則として原本還付ができないと申し上げましたが、先日、原本還付の必要性が生じたご依頼がありました。
他管轄を含む複数の土地の所有権移転だったのですが、頂いた委任状が1通だったのです。
この時に頂いた委任状の内容は、A管轄の登記申請、B管轄の登記申請、2つの登記申請の委任でした。
つまり、今回の登記用の委任状は当該登記申請のためだけに作成された書面には該当しません。
当該登記申請、その後の他管轄の登記申請と、2つの登記申請のための委任状となるからです。委任状の原本還付を受けられるケースでした。
委任状の還付を受ける際にはわかりやすく知らせる
最初にA管轄に申請をしました。
A管轄、B管轄、2つの登記申請の委任状なので原本還付ができることに疑義はありませんでしたが、通常委任状は原本還付しないケースが多いので、委任状原本と原本還付用の写しそれぞれに付箋でメモを残しました。
登記官が見落としをしないよう(そんなことはないとは思いますが)、「登記完了後B管轄に申請するので原本還付お願いします」というような趣旨の文章を書いておきます。
さらに委任状の物件の表示欄に、不動産ごとに管轄をシャーペンで書きました。
登記申請自体はオンラインで申請しますが、添付書類の提出は紙ベースなので伝えたいことは付箋などでメモをしておくとわかりやすいと思います。
無事に登記は完了、スムーズにB管轄へ申請することができました。
B管轄で申請する時点では、登記の委任状の内容がB管轄での登記申請のためだけの委任状となっていますので、原本還付はしません。
委任状はB管轄で提出したらもう戻ってはきません。
委任状の還付ができる場合があることを覚えておこう
登記申請のためだけに作成された書類は原本還付されないと覚えてしまうと、委任状はいかなるときも原本還付できないと考えてしまいがちですね。
実際は「当該」登記申請のためだけに作成された書面は原本還付されない、ということなので、委任状の原本還付ができる場合があります。
他管轄にまたがる登記用の委任状での申請は原本還付ができるケースでした。
今回は、他にもA管轄完了後B管轄に添付する書類があったのでA管轄、B管轄と順番に登記を申請しましたが、それぞれの管轄ごとに必要書類が揃っていて同時申請ができるケースでしたら委任状も管轄ごとに書いてもらうべきかと思います。
今後もお客様への負担の軽減や効率的な登記を心がけて業務を行っていきたいと思います。